なんで幻冬舎が仮想通貨メディアを?:次のメディアの形を模索する『あたらしい経済』の設楽編集長に聞いてみた

なんで幻冬舎が仮想通貨メディアを?:次のメディアの形を模索する『あたらしい経済』の設楽編集長に聞いてみた

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「あたらしい経済」は出版社である幻冬舎が立ち上げた、仮想通貨・ブロックチェーンに関するWebメディアだ。

幻冬舎については、今や、カリスマ編集者・箕輪厚介氏や社長である見城徹氏の名前の方が有名になってしまったかもしれない。

仮想通貨という文脈では、佐藤航陽『お金2.0』・落合陽一『日本再興戦略』を NewsPicksと共に出版していると言った方が分かりやすいかもしれない。

この文脈を辿れば、幻冬舎が仮想通貨・ブロックチェーンメディアを立ち上げるのは不自然では無いかもしれない。

ただ、誤解を恐れずに言えば「仮想通貨に関連するメディア業」は、個人のブロガーが最も利益を上げやすいジャンルであり、法人メディアが活躍するジャンルでは無い。

日本国内においては、売上規模にすれば、法人メディアより個人ブログの方が大きいだろう。

最も旧態依然としてそうな出版社である幻冬舎がなぜ、仮想通貨のWebメディアに踏み込めたのか。

編集長の設楽氏に話を聞いてみた。

幻冬舎でWebと言えば「設楽」

Twitterや、Web上で見る設楽編集長の経歴は、「マイナビ、幻冬舎、NewsPicks Book」など、華々しくはあるが、よく分からないものにも見える。

一方で、幻冬舎の中にいる箕輪氏と比較すると、設楽編集長も自身でサロンを運営していたり、Voicyでも発信をしていたりと、「個人ブランディングをしている幻冬舎の人」というのは分かりやすい。

ただ、それだけでは、何故出版では無くWebメディアか。何故ブロックチェーンなのかというのは見えてこない。彼がどうして幻冬舎の中で『あたらしい経済』を立ち上げ、編集長になるに至ったのか。まずはそこから聞いていきたい。

COINJINJA 編集部(以下、神社):そもそもネット上の情報を拾っているだけだと、設楽さんのキャリア自体が見えにくい所があるのですが、簡単に教えて頂けますか。

設楽編集長(以下、設楽):元々2002年くらいからHTMLなんかは好きで、それこそBlogって言葉が出来た頃から触ったりしていました。当時自分でサイトを作ってアフィリエイターをやっていたりしました。

また新卒で入社したマイナビでも、就職活動の媒体も変わり始めていて求人広告の売上は、入社したタイミングでは最初は紙の方が大きかったのですが、それから1年でWebと逆転してしまう、そんな時期でした。

その頃から広告営業をしながら、今で言えばWeb広告営業に採用オウンドメディアを一緒に作りましょう、とか内定者向けのe-learningを導入しましょうといった提案や企画をしていました。

その後、2005年に幻冬舎に転職して、最初は書店営業をしていました。でも前職でやってたWEB系の仕事に比べると、正直あまり面白くなかったので、ある時、当時とてもダサかった幻冬舎のHPをリニューアルした事があって。あと当時幻冬舎に無かった社内のイントラネットを構築したりしていました。

それ以降、非常にアナログな会社で他にそういう人材もいなかったので、社内や経営陣の間でも「設楽はネットに詳しいね」という評価になんとなくなっていきました。

ちょうど時代の流れもあって、ネット系の色んな提携の話が会社に来ることが増えてきた時期でした。その時に、打ち合わせに同席するようになって。例えば社長と有名なIT社長の方々が打ち合わせする時には、「ちょっと通訳で入ってよ」という形ですね。

なので、配属はしばらくの間営業局だったのですが、半分以上はネット関連のアライアンスや新規事業をやってきました。

それで確かiPad発売のタイミングで電子書籍が来そうだという事になって、その頃Web系のアライアンスも増えてきたので、私がデジタル専門の部署を立ち上げることになりました。最近だとpixivさんと「ピクシブ文芸」という小説投稿サイトを作ったり、CAMPFIREさんと一緒に「エクソダス」という出版とクラウドファンディングを掛け合わせた会社を立ち上げたりしました。NewsPicksとの協業プロジェクト「NewsPicksアカデミア」では、箕輪くんNewsPicks bookのコンテンツを作って、自分がビジネスサイドを担当するという役割分担ですね。

それとは別に個人として趣味のサウナに特化した「サウナサロン」やNewsPicksの野村さんとビジネスパーソン向けの「風呂敷畳み人サロン」なんかを運営しています。

こういった新しい取り組みをしていくと、やっぱり今後は働き方というのは変わっていくなと。

神社:もう既に変わっていますよね。

設楽:実際に変わっています。箕輪君にはおよばないですが笑、僕のような普通のサラリーマンでもサロンでちょっと毎月収入が入ったり、風呂敷畳み人で配信してるラジオにスポンサーがついたりしています。

僕自身、このお金って何だろうなって思い始めてて。自分のお金や仕事に対する考え方が変化してきています。またそういった社外の活動で稼ぐだけではなく、その活動の人脈が幻冬舎での仕事に生きたりもしています。

オンラインサロンやっているからこそ、WEBメディアの編集長さんや作家さんなどからオンラインサロンを立ち上げたいという相談も来たりしますし。

なので、ブロックチェーンや仮想通貨じゃない所でも稼ぎ方が現実レベルで変わって来ていると実感しています。

あたらしい経済 ( https://www.neweconomy.jp/ )

ブロックチェーン、仮想通貨(暗号通貨)、トークンエコノミー、評価経済、シェアリングエコノミーなどの「あたらしい経済」をテーマにしたビジネスパーソン向けのWEBメディア。これからの「あたらしい時代」に向けた、幻冬舎の新規プロジェクト。今後オリジナルトークンの発行なども実施予定。

ブランドしか生き残らない世界で新しいメディアを考える

『あたらしい経済』は今のところ、雑誌のような有識者へのインタビュー記事や連載記事、毎日のニュースを音声配信するという2つのカテゴリがある。

前者は、出版社が運営するメディアとして考えれば、鉄板、必須とも言えるコンテンツだろう。

後者も、編集部の面々の経歴を知っていると、理解しやすい。Voicy配信者でありブロガーであるたっけ氏がいるので、Voicy配信者は2人。音声配信のノウハウがある編集部だ。

ただ、それだけで他の競合に勝てるメディアが作れるのか?と考えると、既存の仮想通貨メディアは気にもかけない位の優位性でしか無いように思える。

神社:仮想通貨に触れ始めたのはいつ位からだったのですか?

設楽:去年の始め位からですね。実際には、2−3年前から何度も買わなきゃいけないと思っていたんですが、忙しくて出来ていなかったです。

でも何度も買おうとしていた頃から感じていたのが、ちゃんとした信用出来るメディアを見つけるのが難しいな、という事です。

僕自身も昔アフィリエイトサイトをやっていたので、個人としては否定するわけでは無いですが、例えばそういうサイトで紹介されている「おすすめの取引所ランキング」は単純にアフィリエイトの金額が高い順番に並んでいることが多くてどうしたものかと感じていました。

またインフルエンサーの方が、スキャムのようなICOを宣伝している事例もあります。

もう少しひどい例は、Binanceへのリンク自体が、偽URLでフィッシング詐欺になっているような事もありました。

また、情報発信をしている方の属性も、技術寄りのテックの方、FX等から来た個人投資家の方、アフィリエイト寄りの方、と一部情報商材を扱う方とごちゃごちゃになっているような状態です。

その中で、幻冬舎という紙の本や雑誌を出版している会社であれば、信用あるメディアを作れるのではないか、そういう安心安全なメディアがあったらいいよなと思っています。今でも出版社という分類だと専門メディアはどこもやっていないので。

他にあるアフィリエイトメディアでは無くて、ちゃんと取材して確かな情報を発信するブランドを作っていけば先々もっと盛り上がって来た時にマネタイズはできるだろうと。

神社:では現状ではマネタイズは殆ど考えていないんですか?

設楽:はい、今まさに現状では。でも近い将来は編集部が厳選したタイアップ広告や、一部の記事の有料化なんかは考えています。ただ、今はとにかくブランディングが優先だろうなと。

今あるマネタイズ手段に走ってしまうと、他と変わらないし、正直、機動力でいったらスタートアップさんに勝てないと思うんですよね。

WiredさんとかNewsPicksさんは圧倒的なブランドがあるんですよね。今後はPVとかじゃなくてブランドしか残らないんじゃないかなと思っています。勿論、短期ではPVとかがあった方が儲かるんですけどね。

一緒に仕事をしていて思うのですが、NewsPicksさんなんかはそのブランドを育てる事で、上手くマネタイズをしていると思います。ので、無駄な記事広告は入れないし、ちゃんとした記事は課金して、ブランドを保てるようなかっこいい広告は入れるみたいな感じで。 「あたらしい経済」に紹介してもらえることがカッコイイ、そういったメディアを僕たちは目指していきたいですね。仮想通貨やブロックチェーンに特化していれば勝算はあるのかなと。既存の同ジャンルWebメディアもそこにまだそこまで強くないので。

そして将来的には、このメディアを主体にしてトークンを発行する事は考えています。メディアの自らの体を使ってトークンエコノミーが実現できるか、その実験をしていきたいなと。多分ここ数ヶ月以内で目処が立つと思います。

最初は、エアドロップなどで配布を始めると思うのですが、何らかサイトが活性化するような仕掛けをいろいろ構想中です。分かりやすく言うと、イベント参加や有料記事が読めるとかですね。

神社:実験していこうというスタンスはすごく感じます。

設楽:ニュースの音声配信なんかも、紙じゃなくてWebという媒体でやっているんだから必ずしもテキストに拘る必要は無いよな、ということでやっています。メディアって別に文字だけじゃなくていいよね、って思ってます。

やってみると、時間も掛からないし、ニュアンスは伝えやすい、あとは色んなことを言えるというメリットがありました。

(テキストと画像ベースの)Webメディアと集まる層も違うし、ユーザーの深さも違うと思うので、動画も含めてマルチメディアでやっていきたいというのはあります。

トークンに関しても発行してエアドロップするだけでも、もしかして税金が掛かるんじゃないの?等の税金の問題もありますよね。

例えば50億個分のトークン発行して10億分をホールドしたら、仮に1トークンの資産価値が1円相当と捉えられれば、税金が10億円分掛かっちゃいました、売上ゼロなのに、みたいな。もちろんそれをどう回避するかなども現在検討していて、そいいった裏側の話も記事にしていきたいなと思っています。

さすがに、僕も10億円分に税金が掛かるって見城に言ったら殺されるので。実際にそれをどうやっていくのか、という過程は見せていきたいですね。これは今後多くの企業がぶつかっていくハードルだと思うので。

あと、将来的に作家さんへの原稿料をトークンで発行するような事は絶対やっていきたいですね。Webメディアの原稿料ってその記事が100万PVでも50PVでも同じ金額なので。

それは変えていきたいですね。

神社:PV連動報酬は、ウチもそれにCointelegraphさんも追随してくれた仮想通貨メディアの中では取り入れている手法なので、ぜひやって頂きたいですね。

設楽:そういうことであったり、広告の支払いなんかも本来的にはスマートコントラクトでやってしまえば楽に出来るんで。かといって、Steemitみたいな仕組みを取り入れても、必ず面白い記事が常に並んでいるわけではないんじゃないかなという課題があると思ってます。現状だと仕組みが非中央集権過ぎても上手くいかなそうです。

神社:では、「仮想通貨・ブロックチェーンでブランドが確立していく」「これからのメディアの新らしい形を模索していく」大きく言えばこの2つがメインの目的なんですね。

設楽:そうですね。そして、それがプラットフォームとして確立出来たら、トークンを絡めて外部に提供していってもいいので。

一方で、今の時点では、緩やかな中央集権というか、編集長のわがままみたいなのは無いとメディアとしては面白く無いとも思っています。

設楽悠介 ( @ysksdr )

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎 コンテンツビジネス局 部長 。幻冬舎で新規事業・電子書籍事業を担当。「あたらしい経済」編集長。また個人活動としてNewsPicks野村高文とのビジネスユニット「風呂敷 畳み人」を組み、Voicyで「風呂敷 畳み人 ラジオ」をはじめとした、数々のビジネスコンテンツを発信中。「風呂敷畳み人サロン」「サウナサロン」などのオンラインサロンを主宰。

“あの”幻冬舎が、ここで仮想通貨メディアに踏み込む背景は

幻冬舎と言えば、というよりも、見城徹と言えば、かもしれない。

営業マンに毎日電話して確認するほど売上を気にする社長だ。

現状、仮想通貨市場においては、取引所を除いて、圧倒的に儲かっているプレイヤーはいない。勿論、個人の投資家やブロガーはいる。

言い方を変えれば、取引所か個人か、しかマネタイズが難しい状態にあるフェーズであるとも言える。

長期投資として割り切れば、これ以上可能性に満ちた市場は無いが、幻冬舎の社風を外から見ていると踏み込むのが難しい市場のように思える。

神社:今足元だと、マネタイズしにくい中で、この仮想通貨メディアに踏み込めたというのは、社内でどういう風に話を持っていったからなんですか。

設楽:正直に言ってしまうと、今は出版業自体が斜陽で、見城もどんどん新しい事をやれと言っているという背景があります。

確かに出版業界においては10年前で同じような新しい事業がガンガン出来たかと言えば難しかったでしょうね。なので、実際うちも過去に例えばFXのメディアはやっていなかったし、当時やろうと思っても踏み込めなかったんではと思います。 でも今のタイミングだと、出版社として違う事業体に軸を移していかなきゃいけない時期なので、逆に新しいことはどんどんやりやすい。但しそれは、ちゃんと取材して、記事を作れるというリソースを上手く活用していくという前提です。

僕もこういった新規事業は10個以上やっていますし、その中の1つとしてはチャレンジ出来る分野でした。

確かに仮想通貨の価格は今は落ち着いていますが、他のIT大手もブロックチェーンで何かするとかいう動きがありますし、確実に抑えておきたいジャンルなのでGoが出ました。

今の現時点だと僕自身もアフィリエイトをやった事はありますし、個人の方が稼げるというのはわかっています。

今後、ちゃんと仮想通貨に法規制やルールが定まって、市民権が広がっていった時に、競合が追いつけない位のものになっていればいいと思っています。

その時に、この分野でNo.1Webメディアになっていれば、レガシーな広告を取っていく、法規制に乗っ取ってちゃんと大企業がICOする時にブランディングのお手伝いをする。そういった可能性は十分にあります。

あと、コストも莫大に初期投資が掛かるわけでも無いですし、スピードが大事だというのは大きいですね。現状だとブロックチェーンや仮想通貨を理解出来る記者も殆どいないので、今からちゃんと育てていく必要性もあります。

ただ、そうはいっても幻冬舎は売上第一の会社なので、見城から毎日マネタイズどうするんだって電話かかって来ますし、ぶっちゃけ毎日それで悩んでますけどね(笑)。でもおかげさまで「あたらしい経済」を初めて1ヶ月ぐらいですが、業界の識者の方から連載したいと連絡があったり、仮想通貨やブロックチェーンのプロジェクトやイベントから取材して欲しいとご依頼いただいたりすることが増えてきました。少しですが手応えを感じています、このまま突き進んでみんなが一緒に関わり、カッコイイと思ってもらえるナンバーワンメディアを目指していきたいです。

(おわり)

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COINJINJA編集部(@coinjinja)です。主に仮想通貨、ブロックチェーン関連のニュースをたびたび配信していきます。立ち位置は仮想通貨界隈の大衆紙、毎日正確な情報を適切に配信するというスタンスではありませんのでご注意下さい。